インタビュー
[対談]当たり前のことを着実に – 特別顧問 根来秀行医師×監督 花田勝彦(後編)
世界で競技した経験豊富な監督と、世界を股にかけ最先端医療の研究を続ける医師が力を合わせると、何が生まれるのか?
GMOアスリーツの監督・花田 勝彦と、医学的なアプローチでチームを支える特別顧問・根来 秀行医師が、「選手の能力をいかにして引き出すか」というテーマで対談を行いました。
トップレベルを目指す選手だけでなく、一般のランナーの方にも取り入れていただけるコツが満載の対談・後編では、脳の休め方や腹式呼吸の重要性についてお届けします。
脳の疲れが全身の疲れに
花田:睡眠以外に、選手の疲れを防ぐための方法はありますか?
根来:肉体的な疲れは、睡眠などで時間をかけて修復する必要があります。しかしそれとは別に、脳の疲れも意識しなければいけません。必要以上に頭を回転させて脳が疲れると、同時に、自律神経が崩れることがあります。また脳は錯覚しやすいので、脳が疲れると全身の疲れとして感じてしまうこともあるのです。
花田:脳を休めるためにも、やはり睡眠が大切になってくるのですか?
根来:睡眠も効果的ではありますが、最近流行しているマインドフルネスという方法もあります。脳は自然と、未来や過去のことを考えてしまって勝手に動き、空ぶかしになって疲れることがあるのですが、それを抑える方法です。
具体的には、今に集中して、一種の瞑想のようなことを行います。ウォーキングしながらやる方法もありますし、五感の神経を今目の前にあることに集中して、過去の記憶や未来に意識が向くのを可能な限り抑えるという方法です。
花田:確かに現役時代、頭の中でいろんなことを考えていると、レース中盤に疲れてしまうことがありました。どうしても思考が止まらないときは、意味のない呪文のようなものを唱えながら走ると良いと言われ、実践もしていましたね。
結果が出たレースでは、振り返ってみると何も考えていないのです。レースのことだけで頭が一杯で、「次で給水だ」とか、必要最低限のことしか考えていなかったですね。それはある意味、瞑想に近かったのかもしれません。これを意識的にやると?
根来:そうですね。レースの時間以外でも、1日に10分でも有効なので、意識的にその時間を持つことが必要です。
腹式呼吸で自律神経をコントロール
花田:メンタル的な部分で選手に指導しているのは、スタート前にお腹に手を置いて、腹式呼吸をして落ち着いて走りましょう、ということです。
根来:腹式呼吸は絶対にやった方が良いですね。横隔膜には副交感神経を上げるセンサーがあるため、腹式呼吸によって横隔膜を動かすことで自律神経を意識的にコントロールできます。頭で集中しようと考えても意味がなくて、腹式呼吸でアプローチするしかないのです。
一番簡単な方法は、1吸って2吐く、または4吸って8吐く、という呼吸法です。普通よりも息を吐く方を長くすることで、副交感神経が優位になり、自律神経のバランスが整います。
花田:ゆっくりと息を吸うのは難しいので、鼻から吸って口から細く長く吐くようにすれば良いですよね。横隔膜を鍛えるために、ゆっくり息を吐いて1分間に2回だけ呼吸する、というトレーニングもやっています。これはかなりきつくて、やれても1分が限界という選手が多いですね。これを1日に10分くらいできるといいんですが(笑)
根来:効果的な呼吸法はいろいろあって、私がハーバードで開発した根来式呼吸法は、10秒で吸って20秒で吐くというものです。詳しくは先日出版した著書(※)に書いてありますので、ご興味があればぜひご覧になってみてください。(※)「ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業「毛細血管」は増やすが勝ち!」(集英社)
当たり前のことを、当たり前にこなす
花田:自信を持つということも必要ですよね。きっちりと練習を積んでスタートラインに立ったときは、「もうやるべきことはやった」という自信が持てます。そうすると、あとはやったことの結果を出すだけでいいので、他人との勝負ではなくなるんです。自分のやってきたことを着実に表現できるかどうか、だけになるので。
根来:そうですね、自信を持つか持たないかで、ホルモンや自律神経のバランスが変わってきます。集中すべきときは、交感神経がきちんと上がって、リラックスするときは下がる。これによって血流がしかるべきところにいくようにすることが重要です。
自信がなくてだらだらと考えてしまうと、夜も交感神経が下がらず頭がぐるぐると回ってしまって、血流がそこに流れてしまう。すると睡眠中に行われるべき身体の修復ができなくなって、さらに心配事が増幅するという悪い連鎖が起きてしまいます。開き直りでもいいので、切り替えが必要ですね。
花田:以前大学で指導していたときに、チームがわずか5年で箱根駅伝に出場し、花田マジックと言われました。しかし何もすごいことはしていなくて、早く寝ましょうとか、食事をちゃんと食べましょうとか、普段やるべきことをきっちりやって、当たり前のことを当たり前にやるように指導していただけなんです。
一般のランナーの方も、私たちが何か特別なことをしているのではないかと思われることがあるかもしれないですが、当たり前のことをしているだけなのです。
ナンバーワンを目指す
花田:今回、私たちが経験則でやっていることが、医学的に正しいことだということが理解できて、非常に有意義でした。今後の活動でも根来先生のバックアップをいただいて、さらに確度を上げた取り組みを進めたいと思います。
根来:GMOインターネットグループは、日本のナンバーワン企業だと私は思います。そこに自分の身体を最優先にして貢献できるということは、ものすごく価値があります。GMOアスリーツの選手は、自分たちが象徴となって、ナンバーワンということを世の中にアピールできるようにがんばっていただきたいと思います。
花田:GMOアスリーツは2016年春にスタートし、ナンバーワンを目指しています。東京五輪で金メダルを取ることが今の選手たちの目標です。そこに向かって、チーム、会社の仲間たちと一丸となってがんばっていきますので、ぜひ熱い声援をお願いいたします!