Running Column

2017 / 02 / 23

[対談]100%の能力を引き出すために – 特別顧問 根来秀行医師×監督 花田勝彦(前編)

GMOアスリーツ対談【特別顧問 根来秀行医師×監督 花田勝彦】

世界で競技した経験豊富な監督と、世界を股にかけ最先端医療の研究を続ける医師が力を合わせると、何が生まれるのか?
GMOアスリーツの監督・花田 勝彦と、医学的なアプローチでチームを支える特別顧問・根来 秀行医師が、「選手の能力をいかにして引き出すか」というテーマで対談を行いました。
トップレベルを目指す選手だけでなく、一般のランナーの方にも取り入れていただけるコツが満載の対談・前編では、給水の重要性や効果的な睡眠の取り方についてお届けします。


己の身体を知り、100%を引き出す

花田:根来先生はハーバード大学、パリ大学、東京大学など国内・海外の医学部で最先端の医療を研究されています。その中でも幅広くトップアスリートのサポートもされているということですが、さまざまな競技の選手と関わった中で、トップレベルで活躍している選手に共通する特徴はありますか?

根来:トップレベルの中でもトップの選手の特徴は、自分の身体の状態を知った上で、本来持っている能力を100%出しているという点ですね。トップレベルの選手には一定水準の能力が備わっていますが、その中でもトップの選手は強靭なメンタルを持って、必要な瞬間に身体の能力を100%引き出せるのが特徴的です。

花田:トップレベルの選手は、自分の身体のことをよく知っているということですね?

根来:理論的に理解している選手は少ないのですが、経験値によって、こうすると自分の能力が発揮できると理解している選手は多くいます。ただしそこにはエビデンス(証拠)が備わっていませんから、一緒に力を合わせて、その経験則が医学的に正しいのか間違っているのかを確かめ、100%の能力を引き出せる確率を上げていくのが私たちの役割です。

花田:たとえばマラソンでは給水が大切で、15~20分おきに適度な給水が推奨されていますが、私は現役時代にあまり給水を取りませんでした。経験則の話でいえば、これも余分な汗をかかないようにと、自分の身体を理解していることになりますか?

根来:そうですね、汗をかきやすい選手や給水によって体温調節をする選手、また季節によって左右される選手など、いろんなタイプに分かれるため、自分に合った給水は大切です。しかし、水分補給が必要であることに間違いはありません。

栄養素や酸素は、水分に乗って身体中に届けられます。これらは血液を介して、動脈から細動脈を通り、毛細血管を経て全身に運ばれます。毛細血管は赤血球が1個通過できるくらいの細さしかないので、水分が不足して血液の粘度が高くなると、肝心な所に栄養素や酸素が届かなくなります。

必要な所に必要な栄養素や酸素を届けるために足りる水分量を取り、なおかつ過剰な水分は取らないというバランスを本人が把握している。これが経験則なのでしょう。

GMOアスリーツ対談【特別顧問 根来秀行医師×監督 花田勝彦】

 

成長過程に重要な、身体を作るための睡眠

花田:GMOアスリーツの選手たちは、これから身体的にもメンタル的にも成長が期待されているところです。これからトップレベルに到達するためには、何を大切にすれば良いのでしょうか?

根来:まだ成長期(20代前半位まで)にある選手ならば、身体が作られていくということに意識を向けなければなりませんね。たとえば、身体が成長過程にある選手と、成長が終わってメンテナンスの過程にある選手では、必要な睡眠時間も違います。

睡眠中は身体が再生工場となるため、7時間の睡眠時間が必要だと著書(※)にも書いていますが、これはメンテナンス過程にある選手にあてはまります。成長過程にある時期には、栄養素が全身に配分されて成長する時間がプラス1時間は必要となります。
(※)「老けない、太らない、病気にならない 24時間の過ごし方」(幻冬舎)

花田:選手が発展途上のGMOアスリーツでは、7時間の睡眠を基本に、できればあと1時間ということですね?

根来:その通りです。4年後の東京オリンピックで金メダルを目指すのであれば、身体を成長させないといけないので、まず成長過程においては睡眠時間をしっかりと取ってもらいたいです。ただ、夜寝るのが遅かったから、翌朝少し遅くまで寝ていようというのはダメです。朝の起きる時間は必ず同じ時刻にする。そうすることで生活リズムができます。睡眠時間をしっかりとると同時に、この生活リズムを整えることが大事なのです。

 

東京オリンピックでの金を目指すなら、寝るのも仕事!

花田:8時間の睡眠を上手に取る方法はありますか?

根来:メラトニンという、睡眠を促すホルモンがあります。これは体内時計に従って、朝起きてから15時間後くらいに出てくるものです。たとえば朝7時に起きると22時くらいにメラトニンが分泌され眠くなり、そこから1時間のうちに睡眠に入ると、深い睡眠ができるようになります。

この深い睡眠は入眠後3時間程度続き、この間に成長ホルモンがたっぷり分泌されます。23時に寝たとするとその3時間後、午前2時頃にはメラトニンと成長ホルモンが十分揃って身体を駆け巡り、さらに成長が継続していくのです。

花田:途中で目が覚めてしまったとき、この働きは続きますか?

根来:この2つのホルモンが切れないようにする必要があります。成長ホルモンは、5~6時間はそのまま循環して作用するので問題はありませんが、メラトニンは非常に光に敏感なので注意しなければいけません。そのためにも、基本的に、睡眠中は部屋を真っ暗にすることが大切です。

一方で、目が覚めて携帯やスマホを見るとメラトニンは一気に下がります。トイレに行く場合も、薄暗い灯りで動線が確保できるようにしておいて、行って帰ってきてまた寝れば、ホルモンの分泌を維持することができます。

花田:GMOアスリーツの選手は、朝5時に起床しています。8時間睡眠を取るとなると21時に寝なければいけません。なかなか今の若者に21時に寝ろというのは……。

根来:難しいと思います。しかし4年後に金メダルを取りたいと思うのならば、少なくともこれから半年か1年くらいの成長過程において、「寝るのも仕事」と考えて欲しいです。4年後にトップレベルで闘えるための土台作りという意味で、絶対にやるべきです。

 

後編へつづく