Running Column

2018 / 12 / 04

[インタビュー]プレッシャーを乗り越え勝負に挑む。勝率を上げるメンタル - 陸上長距離選手 藤原新選手×監督 花田勝彦(中編)

ネガティブな言葉は絶対に使わない

花田:僕も大きな舞台に立つときにプレッシャーを感じましたが、新くんはスタートに立つときにプレッシャーは感じますか?

藤原:プレッシャーはめちゃくちゃ感じます。(人前で話している)今もすごく感じています(笑)。心理状態を見るのに良い指標の心拍変動というのがあります。心はリズム良くトントントントンと動いているのが一番調子良い状態ではなく、ある程度揺らぎがあるのです。その揺らぎがあったほうが実は副交感神経と交感神経のバランスが良い状態だと言われていて、それを計る機械を持っていたのです。2012年の東京マラソン前に計ったのですが、精神的にギリギリですという値がでました。

花田:だいぶプレッシャーを感じていたんですね。

藤原:プレッシャーに強いか弱いかと言ったら強いかもしれないけど、少なくともそういう値が出るくらい感じていると思います。ただ、失敗が怖くてマイナス思考になることは当然ありますが、それをポジティブ思考で覆い隠すということをよくやります。

花田:例えばどういうふうに?

藤原:まず言葉の使い方に物凄く注意します。ポジティブ思考でいるためにも、自らネガティブな言葉は絶対に使わない。例えば謙虚に「いや調子悪いですよ。」とは絶対に言わない。愚痴を言っている人がいたら逃げる。皆が親切心で「お前は本番に弱いからな。でも頑張れよ。」など言ってきますが、そういう人達には近づきません。そういうネガティブな言葉からはとにかく逃げるよう、特に注意しています。本当に受験生が「すべる」っていう言葉に敏感になるのと同じぐらい敏感になっていましたね。

花田:それでは、試合前は結構ナーバスになるのでは?人に話しかけられるのが嫌みたいな。

藤原:マイナス思考を植え付ける話題ではなければ、全然OKです。むしろ一人でいたらそういうメンタル状態になるので、それと関係ないポジティブな話をすることを重要視しています。

花田:つまりプレッシャーは感じるけれども、マイナス思考をポジティブ思考で覆いかぶせていく、打ち勝っていく感じですね。

藤原:本当にそういうことだと思います。イメージとしては細い線の上をバランス取りながら、ギリギリのところを渡っていくようなメンタル状態で、ちょっと油断するとポロッと落ちちゃうような、でもそういう集中力がやっぱり必要だと思います。
やはり、それがレースに繋がってくる。例えば25km地点に基本があるとすると、30kmまで行ったらあと12km、というようになんとなくゴールが見える。だから25kmの時に、そういう集中力が必要なのかなと思います。

力を発揮する試合前の「儀式」

花田:なるほどね。普段そういった試合とかあると緊張だとかプレッシャーだとかあると思いますが、それを解消するために日常生活でリラックスするために心がけていることやこだわりの方法とかありますか?

藤原:あまり褒められたことではないですが、お酒は多少飲みます。僕の中では「儀式」として、1週間前にお酒を飲むんですよ。でも、これは真似しないでくださいね。人に勧めているわけではなくて僕の場合の話です。

花田:1週間前に、ですか?

藤原:はい。1週間前に。ちゃんとしたところで、ちゃんとしたレストランで、あえて高いお酒を飲むわけですよ。「おめでとう。」と「俺はもう勝ったぞ。」と。

花田:がぶ飲みではなくて、前祝みたいな感じでいいお酒を飲んでいるんですね。

藤原:これは試合前の「儀式」で、オフというのとは意味合いが違うんです。けれども、僕流なので真似しないでくださいね。

花田:でもそれがリラックスというか、ストレス解消になっているわけですか。

藤原:今はあまりやらないですし、その儀式も毎回行っていたわけではありませんが、行ったときは8割方走れていましたね。2013年に大きな故障をして、それ以降はかなり走りが変わってしまったから比べられるものではないのですが、その前は大体5割の確率でサブテン(2時間10分切り)が出せていました。

確実に勝つために重要なこととは

花田:マラソン練習において、これが特に大事だということはありますか?

藤原:最初に「やる!」と決めることが必要だと思います。それは当然、他人に言わないほうがいい。だってみんな決めたら、みんなやることになってしまうから。でもそういう人達が集まると絶対に意識が高くなるし、お互い絶対に負けたくないという気持ちがひしひしと伝わってくる。それに、これが出来たら次に行こうというのを最初に決めると、大体これくらいまでにこれくらいに仕上げる、じゃあ今どうなの?やばい、やばい。もっと行かないと、となる。そのやばい、やばい、というマイルドな焦り感というか、やばいやばい、まだまだ目標に足りていないなという感覚が一つのエンジンになる気がします。

花田:新くんの場合はロンドン・オリンピックの時に俺はロンドン・オリンピックに行くんだと決めていて、それなら東京マラソンではこれくらいで走るんだというイメージを持っていたということですか?

藤原:まあ、そうですね。マラソンは誰が勝つか結構わからない部分があるので、勝つ、勝ちたいではなく勝率を高めたい。たぶん20%は結構高い方だと思いますが、その状態まで持ってきて、さらに確実に勝つためにはどうしたらよいかを考えてスタートラインに立っていました。レース前の最後の1か月くらいは、どうやったら勝てるかという頭ではなくて、どうやったら確実に相手を寄せ付けないかというメンタル状態にしておくというのは一つの指標になると思います。

花田:なるほどね。

藤原:でも僕の初マラソンは2時間38分だから。

花田:でも次は2時間8分40秒でいったわけだよね?

藤原:そうですね。2時間38分のレースで駄目だった原因は腹痛と足のマメだったのですが、根本的な問題ではなくて、経験不足によるものでした。こんなに足のマメってできるものだということも分からなかったし、給水もがぶ飲みしすぎたし、前日のカーボローディング(競技に必要なエネルギーを体内に蓄えるための食事法)も、ちょっと消化の悪いものを食べてしまいました。それで30km地点で腹痛が起こり、さらに足のマメも破れて、最後は歩くような感じでゴールしました。でもそれって根本的にスタミナが足りないのではなく、それでクリアしやすい課題が見えたんです。

花田:対処できる答えがわかったということだよね。

藤原:その時も「これで次は確実に勝つわ。」と思って、帰りの新幹線ではビールを飲んでルンルン気分で帰りました(笑)だから、それくらいプラス思考であって良いと思います。

 

後編へつづく

 
 

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